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何かと悪い噂ばかりのアエロフロート、何故だかモスクワのシェルメチェボ空港でのトランジットが24時間も添えられていた。 すっかりカラマーゾフ熱に浮かされていたためにモスクワの街を出来るだけ見てやろうと思っていたら、ビザが無いと空港から出れない様子。仕方がなく空港内で丸一日分の時間を過ごすことになった。


空港といえど、ロシアである。公共空間とは思えないほど薄暗く、同じようにトランジットで待たされている人々が新聞紙を敷いて寝転び通路を埋め尽くしている。ノースモーキングの看板の下では空港職員が平然と煙草をふかしながら談笑しており、ゲートには空港にすら入れずに空を睨む中国のツアー客で溢れている。ゲートで待っていても東洋人が嫌いらしくわざと受付に職員が出てこない。ツアーコーディネ−ターが慣れた手つきで煙草を渡し、ツアー客はぞろぞろと空港内に移る。


空港内は有名ブランドのショップと飲食店で占められているが、ユーロを受け付けてくれないので何も買うことが出来ない。いくら交渉してもノーキャッシュ、24時間水で過ごさなければならないようなので眠ることにした。先客に数枚の新聞紙を譲ってもらい、毛布に包まって通路に寝転がる。バックパックの枕はお世辞にも心地よいとは言えないけれど、一つの旅のスタートラインとしては素敵な気がした。目の焦点の狂ったおばさんがビニール袋に嘔吐し、その隣では何人かのグループがポーカーに興じている。酔っ払った職員が枕元で何かを呟いて、日が沈むにつれてどんどん気温は下がっていった。


浅い眠りから目を覚ますと、辺りは不気味なくらい暗くひっそりとしていた。周りにいた人々はほとんど姿を消し、照明もほとんど消えている。おそらく残っているのはトランジットホテルに泊まる金もなく安いチケットを求めた間の悪い人だけなのだろう。飛行機の中でずいぶん寝入ってしまったので全然眠くない、毛布を残して少しばかり空港内を見て回ることにした。店のシャッターはすべて下り、空港職員も消えている。薄暗い喫煙室には若い黒人の兄弟が寝入っていた。気持ち良さそうな寝顔につられてもう少し眠ってみようと思い、ブラブラと歩いてきた道を引き返す。


寝床まで戻ると、同い年くらいの女の子が自分の毛布にくるまって座っていた。近づいてゆくといたずらっぽいような、申し訳ないような顔をしながら毛布を手渡される。英語はほとんど喋れないようで、スケッチブックに絵を描いて意思疎通を図る。どうやら同じような境遇ではあれ彼女の方は帰国便で、ホテルに使えるようなお金もないのでここに残ったらしい。スケッチブックのロシア人は彼女の落書きでたちまち教科書の偉人になり、空気枕はバレーボールになった。そんなやり取りの中で、素直に状況を楽しむということがとても素敵に思えた。空が少し白んで来た頃、二人で毛布をシェアして再び浅い眠りについた。

    

太陽が昇るにつれて、通路はどんどん人で埋まってゆく。ここは人が来て、そして去ってゆく場だから、一晩明かした自分は既に古株みたいになっている。後から来た人に「ここ開いてますか?」なんて訊かれたりして。人は定着の深度によってその場所の意味合いを変えてゆくのかもしれない。定着に付随するようにレイアウトの変化があって、その延長線上に家がある。それが素直で自然なカタチなのかもしれない。自分の感じる場所とのある種交感のようなものを切り捨てて、バラバラに切り売りされる現代の土地に僕らはどうかかわっていけばいいのだろうか?


ヘルシンキ行きの便が到着し、女の子と握手を交わし24時間の仮の我が家をあとにした。短いようで長い、空っぽのようで濃密な時間の中に詰まったたくさんのヒント。不評だらけのアエロフロートが、なんだか少し憎めなくなった。
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